2024年から2025年にかけて、暗号資産市場で急速に広がった「DAT(デジタル・アセット・トレジャリー)」戦略ブーム。ビットコイン(BTC)などの暗号資産(仮想通貨)を、企業の財務戦略に組み込むこのモデルは、米ストラテジー社(旧マイクロストラテジー)の成功を追い風に世界中に広がった。日本でも、ホテル事業を本業としていたメタプラネットが先陣を切り、複数の上場企業がDAT企業として注目を集めている。
一方で現在、DATを取り巻く環境には明らかな変化が生じている。この減速感は一時的な調整なのか、それともブームの終焉を意味しているのか。
こうした疑問から当社は昨年10月、主催するビジネスコミュニティ「N.Avenue club」に、暗号資産に特化した米資産運用会社のPantera Capital(パンテラ・キャピタル)を招いた。同社は2013年、米国初のビットコイン特化型のファンドを立ち上げたことで知られ、これまでDAT企業に約400億円超の投資を行ってきたと報じられている。DATに特化したファンドも立ち上げるなど、いち早くこの分野に着目してきた存在だ。Genral Partnerを務めるCosmo Jiang(コズモ・ジャン)氏に、DAT企業の現状と可能性について語ってもらった。
NADA NEWSは今回、その内容を踏まえつつ、新年に向けてPanteraに追加取材を実施。暗号資産・ブロックチェーン分野に特化したVCとして何を考え、「次に残るDAT」と「淘汰されるDAT」の分岐点をどこに見ているのか。その視線の先に迫った。
DAT市場、淘汰と再編のフェーズへ
ジャン氏は現在のDAT市場について、「ジェネシスフェーズ(創世期)はすでに終わりつつある」との認識を示す。
ブーム初期、同社はDATという新しい企業形態について、どこに未開拓領域があるのかを洗い出す作業を行っていたという。しかし結果的に、市場の成長スピードは想定をはるかに上回っていたと振り返る。
ジャン氏は、現在起きているのは典型的な「資本循環(キャピタルサイクル)」だと説明する。
〈PanteraのGenral Partner、コズモ・ジャン氏:同社提供〉
高いリターンが見込める分野には競合が流入し、収益性は低下していく。DAT市場も例外ではなく、参入企業の急増によって空白地帯はほぼ埋まり、株式市場におけるDAT企業への需要も、少なくとも足元では一服しているという。
ただし、ジャン氏はこうした調整局面をネガティブな終わりとは捉えていない。むしろ、市場が成熟し、企業の実力が問われる段階に入ったと見る。
これからのDAT市場は、選別と再編のフェーズに入るとジャン氏は指摘。事業運営と資本戦略をきちんと回せる企業が残り、そうでない企業は統合や市場からの退出を迫られるようになると説明した。
資本市場の理解と投資家への発信
ホワイトスペースが埋まった以上、DAT戦略の良し悪しは、奇抜なアイデアや参入タイミングでは決まらない。ジャン氏が強調するのは、資本市場をどれだけ深く理解し、投資家の信頼を得るために動けるかという点だ。
ジャン氏によれば、DATとして持続的に評価されるために重要な要素は2つある。資本市場に対する高度な理解と、投資家の関心を引き続ける発信力だという。
〈昨年10月、当社のN.Avenue clubにオンラインで登壇したジャン氏〉
単に暗号資産を保有するだけでは不十分で、増資や負債管理を含むバランスシート運営を的確に行えるかどうかが問われる。そのためには、伝統的な金融市場での経験や大口投資家からの信頼が不可欠になるという。
同時に、DATという比較的新しいモデルを市場に理解してもらうためのマーケティング力も欠かせないと指摘。どれだけ戦略が優れていても、投資家に伝わらなければ評価されないとした。
DATモデルは持続可能か
国内を振り返ると、日本のDATブームの火付け役はメタプラネットだった。
同社は2024年にBTCの保有を開始し、2027年までに累計21万BTCを取得するという大胆な計画を打ち出した。これが市場の期待を集め、株価はピーク時に90倍超まで急騰した。
しかし2025年後半、その熱狂には陰りも見え始めた。7月ごろから株価は下落基調に転じ、10月には、DAT企業の企業価値を測る指標の一つである「mNAV(修正純資産価値)」が初めて1を下回る局面も迎えた。
mNAVは企業の株式時価総額が、保有するBTCの市場価値に対して何倍で評価されているかを示す指標で、1.00を下回る状態は、株式市場での評価が保有BTCの価値を下回っていることを指す。言い換えるなら、市場がDAT戦略に対してプレミアムを付けなくなったことを意味する。
他のDAT企業でも同様に株価の軟化が目立つようになり、市場ではDATモデルそのものの持続性を疑問視する声も聞かれるようになった。「事業会社と呼べるのか」という疑問の声も根強くある。
〈shutterstockより〉
ジャン氏は、こうした動きの背景にDATの基本構造があると見る。
新株予約権の発行などを通じ、株式市場で調達した資金を用いてビットコインを購入する方法は、BTCの価格変動と資本市場のリスク選好の双方に強く依存する。相場環境が好転すればレバレッジは効くが、逆風下ではその反動も大きい。
2025年はBTC市場の停滞とともに、DAT企業の構造的な弱点が顕在化した年だったと言える。
保有から運用へ、鍵を握る「資産サイド」
この点についてジャン氏は、DAT企業を単なる暗号資産の保有主体ではなく、銀行や保険会社のようなバランスシート(貸借対照表)を使って価値を生み出す金融サービス業に近いと位置づける。
こうしたビジネスモデルは何世紀にもわたって成立してきたと説明し、DATの本質的な目的もまた、「1株当たりの純資産価値(Book Value Per Share)」をいかに最大化するかにあるとした。
問題は、これまでのDAT企業の成長が、増資や株価上昇といった「株式市場での評価」そのものに大きく依存してきた点だ。その結果、市況が変わると、評価が急速に切り下げられやすい構造になっていた。
ジャン氏が今後の分岐点として挙げるのが、保有する暗号資産を通じて収益を生み出す「資産サイド」からのリターンだ。
暗号資産を単に保有するだけでなく、ステーキングやDeFi(分散型金融)などを通じて利回りを生み出せるかどうか。こうした運用力が、DAT戦略を安定したものにすると語る。
同氏は特定の企業を推奨する立場は取らないと前置きしつつ、パンテラが主要投資家としてDAT戦略の立ち上げを支援した米ナスダック上場のSolana Company(ソラナ・カンパニー、旧ヘリアス・メディカル・テクノロジーズ)を例に挙げ、DAT企業の「次世代像」を考える上で参考になる事例だとした。DATの価値を言語化し、株主に説明しながら実行していく姿勢を評価している。
税制がもたらす日本市場の可能性
DATにとって最も重要なのは、「流動性の高い資本市場へのアクセス」だとジャン氏。その意味で、米国は依然として有利な市場だ。
一方で、日本については独自の可能性も指摘する。暗号資産と株式の売却益に対する課税の違いが、メタプラネットの成功を後押しした要因の一つだったと説明。株式を通じて暗号資産に疑似的に投資できるDATモデルには、日本特有の優位性があると分析する。
〈shutterstockより〉
適切なチームと制度設計があれば、日本でもビットコインに限らず、イーサリアム(ETH)やソラナ(SOL)を軸にした「ローカルチャンピオン」が生まれる余地は十分にあるとの見方を示した。
ただ、NADA NEWSが昨年行った業界関係者への取材では、2028年にも国内で暗号資産ETF(上場投資信託)が登場する可能性が指摘されている。ETFが解禁されれば、税制面の優位性は失われる。さらに、2028年からは暗号資産の売却益に対して分離課税が適用される可能性も高い。ETFの解禁と分離課税の導入が同時に進めば、DAT企業株に投資することで得られる魅力は、ダブルパンチで失われかねない。
残された時間は約2年。この期間をどう使うかが、日本のDAT企業にとって重要な意味を持つことになりそうだ。
ジャン氏の視線はDATブームの熱狂そのものではなく、その先にある選別のプロセスに向いていた。企業としての実力が問われるフェーズを経た健全な再編の先にこそ、本当に価値を生み出すDAT企業が残る。
暗号資産をどれだけ保有しているかではなく、どう運用し、どう成長につなげていけるか。ジャン氏は、そこに次の勝者を分ける境界線を見ている。
市場が冷え込む局面こそ、持続可能なモデルを構築できる企業と、そうでない企業の差が明確になるのかもしれない。Panteraが示す視点は、DAT企業を評価する投資家にも重要な示唆を与えている。
|文:橋本祐樹
|トップ画像:Pantera CapitalのGenral Partnerを務めるコズモ・ジャン氏
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