ステーブルコインは、もはや決済や取引のための“通貨”ではない。トークン化MMFやトークン化国債の拡大を背景に、「金利を生む資産」として再定義されつつある。
BlackRock(ブラックロック)のトークン化MMF「BUIDL」をはじめ、機関投資家資金のオンチェーン流入が進むなか、オンチェーン金融にとって、次のチャレンジは「利回りそのものをどう設計し、どの流動性へ接続するか」にある。
Secured Financeは3月2日、ステーブルコインを預けるだけでルールベース運用が自動実行される新プロダクト「Secured Finance Yield Vault」を公開した。
ユーザーはJPYC(Ethereumメインネット)をVaultに預けるだけで、Vault持分トークン「yvJPYC」を受け取ることができる。yvJPYCはオンチェーン上で移転可能で、将来的には他のDeFi(分散型金融)プロトコルでの活用も想定される。
操作は「入金」と「出金」だけ。裏側では、金利ストラクチャリングが自動実行される。
「調達」に続く、「運用の箱」の実装
Secured Financeは2026年2月、トークン化RWAを担保にステーブルコイン(JPYC/USDC)を調達できる機能を実装した。これは、オフチェーン資産をオンチェーン担保へ転換し、「オンチェーン資金調達」を可能にする取り組みだった。
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今回のYield Vaultは、その対になる「運用」レイヤーの実装にあたる。
Vaultは、伝統的金融における投資信託やETF、MMFのような「運用Vehicle(資産をまとめて管理・運用する箱)」に相当する。ユーザーは個別に注文を出したり、ポジションを管理する必要はなく、Vaultに預けるだけで、あらかじめ定義された戦略がスマートコントラクトに従って実行される。
いわば、オンチェーン版の“金利パッケージ商品”だ。
第1弾は「JPYC Vault」──固定金利レンディングを自動化
〈〈「N.Avenue club」に登壇したSecured Financeの菊池マサカズ氏|撮影:多田圭佑〉
Secured Finance Vaults上で最初に公開されたのは「JPYC Vault」。
Ethereum上のJPYCを預けると、「Secured Finance JPYC Lender」というStrategyを通じて、Secured Financeの固定金利レンディング市場で自動的に貸し出しが行われる。
従来のオーダーブック型市場では、金利水準を見ながら注文を出し、管理する必要があった。Vaultはそのプロセスを抽象化し、戦略実行を自動化する。
預け入れ時に発行されるVault持分トークン「yvJPYC」はオンチェーン上で移転可能であり、今後は担保としての活用など、他プロトコルとの接続も視野に入る。
なぜ今、「オンチェーンVault」か
近年、トークン化MMFやトークン化国債の市場規模は急拡大している。BlackRockのBUIDLをはじめ、米国債を裏付けとするトークン化商品は、数十億ドル規模に達したとされる。
こうした動きは、「オフチェーンの金利資産をオンチェーンに持ち込む」フェーズを意味する。
一方で、オンチェーンでの運用は、理論的には透明性が高く、検証可能だが、依然として煩雑だ。複数のプロトコル、複数のチェーン、複数の戦略にまたがる管理が必要になる。
そこで台頭しているのが「Vault」という抽象化レイヤーだ。
リリースが引用する市場分析によれば、オンチェーンVaultの預かり資産(AUM)は2025年にピーク時で約88億ドル(約1兆3600億円、1ドル=155円換算)に達し、2026年にはさらに倍増するとの見方もある。Vaultは、機関投資家資金をDeFiへ接続する「Institutional Wrapper(制度化された運用の箱)」として機能し始めているという。
Secured Financeは、金利アクセスを「運用Vehicle(箱)」として提供することが、オンチェーン金融の次のフェーズと位置づける。
オンチェーン担保の時代へ
また、今回の発表で注目すべきは、Vault持分トークン「yvJPYC」の存在だ。
トークン化RWAが「オンチェーン担保」として使われ始めたように、今後は「金利を生むVault持分」そのものが担保として使われる可能性がある。つまり、
・RWAを担保にステーブルコインを調達
・ステーブルコインをVaultで運用
・Vault持分を再び担保として活用
という循環構造が成立すれば、オンチェーン上で「担保が担保を生む」レイヤード構造が形成される。これは伝統的金融では当たり前に行われている資本効率の仕組みであり、資本市場の中核をなす構造でもある。
Secured FinanceのVaultは、その中核レイヤーを狙う設計と言える。
同社Founder & CEOの菊池マサカズ氏は、次のように述べている。
「ステーブルコインで調達と運用が当たり前になる世界では、金利インフラが経済活動の基盤になります。Secured Finance Vaultsは、複雑なオンチェーン運用を、入金・出金というシンプルな体験に抽象化するVehicleです」
ステーブルコインは「決済」のためのツールから、オンチェーンでの「担保」「金利」「運用」のための基盤資産へと役割を広げつつある。
Secured Finance Yield Vaultは、その流れを日本円建てステーブルコイン「JPYC」で具体化する試みだ。オンチェーン担保が本格的に機能し始めるとき、Vaultは単なる利回り商品ではなく、資産・金利・流動性をつなぐオンチェーン資本市場の接続点となる可能性がある。
|文:増田隆幸
|トップ画像:リリースより


